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下ろすことの重要性

「下ろすこと」とは、トレーニングにおいては「ネガティブ運動」とか 「エキセントリック運動」とか言われて、最近では認知度が高まり、トレーニング中に気を使っている人も 多いと思います。しかし、なぜそうなるのかということに関してはあまりわからないのではないでしょうか。 私も納得いかないままでは面白くないので、納得のいく理由を調べてまとめてみました。


●3種類の緊張

筋肉が力を発揮できるのは、収縮する方向にのみです。パワーショベルなどの油圧シリンダーのように 膨張して力を出すことは出来ません。しかし、力の方向は一方向でも、動きは別です。収縮する方向に緊張しながら 引っ張る場合と、引っ張る力と抵抗する力が釣り合って動かない場合と、引っ張られて伸びていく場合です。 「下ろすこと」とは、筋肉が緊張しながら引っ張られて伸びる状態を言います。

◆コンセントリック(concentric)運動

一番基本的な形なので、理解しやすく、「骨格筋のモデル」なんかでよくみかける 紙で模した骨格と糸で模した筋肉のカクカク動く模型では、糸を引っ張って関節を曲げることによって 骨格筋の構造を理解したものです。そのときは、筋肉は「引っ張る」ことしか出来ないので、 腕などを伸ばす場合は、反対側の筋肉が「引っ張る」ことによって腕を伸ばすということがよく理解できました。

負荷に逆らいながら筋肉を収縮する運動がコンセントリック運動です。


◆エキセントリック(eccentric)運動

物理学でいう「仕事」というのは、物を低いところから高いところに持ち上げるときに、 物に位置エネルギーを与えることを「仕事する」と言ったりしますが、逆に高いところから低いところへ 降ろす場合、位置エネルギーを「受け取る」と考えると、このコンセントリック運動は成り立ちません。 ゆっくり降ろすことによって重量に逆らい、位置エネルギーを無駄に消費する運動なのです。

無駄にと言いましたが、実際には「高いところから飛び降りた時に、衝撃を吸収する」 というように必要な動作なのです。

◆アイソメトリック(isometric)運動

筋肉が収縮する力と、反発する力が釣り合った状態で筋肉が緊張した状態を言います。 動いていないからといってなにも起こっていないわけではなく、筋肉ではエネルギーを消費し、 様々な反応が起こる立派な運動なのです。

トレーニングにおいては、人間の力では動かないようなものを押すまたは引くことによって、 運動する人の精神が許す限りの最大筋力で安全にトレーニングすることができます。

●筋肉の構造

◆筋原繊維

筋肉は筋原繊維と呼ばれる多数の繊維で構成されているということは、 ほとんどの人が知るところであります。筋原繊維を輪切りにしたステーキや焼肉では わかりにくいかもしれませんが、フライドチキンを食べればよくわかります。

「筋肉を鍛えて太くする」ということは、この筋源繊維が増えるわけではありません。 一本一本が太くなるのです。

◆遅筋

その名の通り神経の興奮から収縮を開始するまでの時間は、速筋に比べて遅いのですが、 非常に持久力のある筋肉です。脂肪(リパーゼによって分解された遊離脂肪酸)を、酸素を使ってエネルギー に変換できるのはこの筋肉です。遅筋は、エコノミー重視の筋肉なので無駄に太くなりません。 したがって、鍛えてもなかなか太くなりにくい筋肉です。

◆速筋

その名の通り神経の興奮から収縮を開始するまでの時間が、遅筋に比べて早い筋肉です。 また、パワー重視の筋肉なので瞬発力があり、トレーニングによって容易に太くすることが出来ます。 しかし、有酸素運動が出来ず、持久力に乏しいため40秒〜50秒で疲労してしまいます。 単純に筋量を増やしたい場合や、力を付けたい場合は速筋を鍛えるのが近道です。

●神経系の制御

◆基本的な制御

筋源繊維の一本一本は、力加減をすることが出来ず、神経の興奮によってONかOFFするのみです。 したがって一つの筋肉として力加減をする場合、ONにする筋源繊維の本数で調整することになります。 実際には、日常生活程度ならば、ほとんどの筋源繊維はOFFしており、かなり余力を残して運動しています。 しかも、同じ筋源繊維ばかりが酷使されないようにうまい具合にローテーションしています。

人間が意識して出せる筋力は、筋肉の限界値ではありません。 個人差もありますが、意識して出せるのは筋肉の最大筋力の30%程度だといいます。 しかし、意識的に筋肉の最大値が容易に出せるようでは骨や関節や腱にダメージを与えてしまうので、 無意識下でセーブがかかるようになっています。 火事場の馬鹿力という言葉があるように、非常時にはそのセーブが外れる (厳密にいうと完全に外れるわけではありません)場合がありますが、これはかなりの危険を伴います。 意識して出せる筋力ですら100%出し切れば怪我の確率が上がることを考えると、 どんなに危険かおわかりかと思います。それに、一回の運動で速筋を全部使ってしまうと、 速筋はあっという間に疲れて動けなくなってしまいます。現実には、疲れて動けなくなった速筋を、 まだ動いていない速筋とローテーションして、筋肉全体としての運動を持続させる必要があるのです。

トレーニングにおいては、筋繊維がローテーションされるということを利用して、 運動を反復できなくなるまで反復することによって、まんべんなく筋繊維を鍛えるということを考えます。

◆負荷による使い分け

筋肉を動かす神経系は、本人の意識することなく色んな制御が働きます。 ONする筋源繊維のローテーションの他にも、速筋と遅筋の使い分けも行なっています。

速筋は、筋肉の構造の項でも説明したとおり非常に持久力のない筋肉です。 したがって、通常動作程度でこれを使っていたら、イザという時に疲労して使えなかった ということにもなり兼ねません。そこで、普段は持久力のある遅筋を主体としたメンバーを動員して、 イザという時に速筋が十分力を発揮出来るように温存しておくという制御が働くのです。

通常動作とはいったいどのくらいの力かというと、意識して出せる力の限界を100% としたとき、約80%までが通常動作となります。つまり、80%以上の力が必要になった時のみ 速筋が動員されるわけです。ちなみに、80%以上というとかなりのがんばりを必要とします。 バーベルを使ってのトレーニングならば、10回も上げられるような重さは80%の負荷ではありません。 がんばっても5回しか上げられないくらいの重さがだいたい80%くらいです。

◆緊急時の制御

速筋は速筋と言うだけあって、速い反応が要求される時に動員されます。 例えば、高いところから着地した時や、転んだ時など、瞬間的に力を入れなければ間に合わない場面では、 速筋を使います。転んで背面から接地した時に首に力を入れて頭部を守ったり、 前から転んだ場合は手を突いて顔面を守らなければなりません。また、足から着地しても、 膝のクッションを利用して衝撃を和らげる必要があります。

◆脊髄反射との兼ね合い

緊急時は、大脳で判断して動作に移るような余裕がない場合が多いものです。 人間にも脊髄反射というものがあり、大脳で判断しなくともある条件を満たせば脊髄が判断して 直接筋肉を動かす場合があります。

かっけのテストでは、椅子に座った状態で膝の下をハンマーで叩き、 脚が上がるのを確認しますが、これは脊髄反射のテストです。動作的には、 膝蓋骨の下の腱をハンマーで叩かれたことによって大腿四頭筋が引っ張られ、 その情報が脊髄に送られて大腿四頭筋が収縮します。

「急に引っ張られる」ということは、高いところから飛び降りて足から着地し、 体重によって膝が曲げられた時、あるいは背面から転んで頭を地面の方向に引っ張られた時など、 瞬間的に力を入れて体を守ることに通じます。

これらの脊髄反射にはできるだけ速い反応が要求されるため、 負荷の大小にかかわらず速筋が動員されます。

◆エキセントリック運動

緊急時の制御では速筋が動員されることがわかりましたが、 この動作を分析すると、引っ張られる力に抵抗しながら伸びる動作ということになります。 各機関による実験報告では、脊髄反射を起こすほど急激な引っ張りでなくとも、 引っ張られる力に抵抗して伸びる動作には速筋が動員されることがわかっています。

つまり、エキセントリック運動には、負荷が80%以上でなくとも、 また、ゆっくりの動作でも速筋が動員される。ということです。

●まとめ

◆トレーニングへの応用

筋発達のために、筋肉に適度な刺激を与えるためには、1セットあたり40秒〜50秒くらいの 運動が最適とされていますが、80%以上の負荷では40秒ももたないハズです。 また、毎回80%以上の高負荷でトレーニングしていると怪我の確率が高くなってしまいます。

しかし、エキセントリック運動を効果的に使えば、 80%以下の負荷で速筋を鍛えることが可能なのです。そうすれば精神的負担も軽くなり、 怪我の確立も抑えられるというメリットが得られます。

具体的には、バーベル等の負荷を下ろす時に、重力にまかせて落とすのではなく、 ゆっくり下ろして筋肉に負荷をかけながら下ろすのです。スクワットならしゃがむ時、 チンニングならぶら下がる時です。

◆筋肉に与えるダメージ

トレーニングでエキセントリック運動を意識して行なうことは大事なことですが、 エキセントリック運動は思いのほか筋肉にダメージを与えていることを忘れてはいけません。 トップビルダーなどは、バーベルを上げられなくなってもさらにそこから補助の人に上げてもらい、 エキセントリック運動だけをさらに何回かやる人もいますが、そこまでやるとかなりのダメージを 筋肉に与えてしまうので、一般にはおすすめできません。

また、登山における下りやスキー・スノーボード等は膝のクッションに大腿四頭筋の エキセントリック運動を多用するので、これも予想以上のダメージを受けるので気を付けましょう。

◆その他

昔の雑誌などに、オイルダンパーを使ったトレーニング器具の通信販売広告が 載っていた記憶がありますが、最近とんと見かけません。 このような器具ではエキセントリック運動が出来ないため、 毎回80%以上の力を発揮しないと筋肉が付きにくいことになります。 自然淘汰されたのは、みんなそのことをわかっているからなのでしょうか。


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